結論として、補給水槽は火災時に消防設備が正常に作動するために不可欠な設備です。
その主な役割は、消火用の配管内を常に水で満たし、圧力をかけておくことです。
なぜなら、配管内に空気が入っていると、いざという時に水がスムーズに出ないためです。
例えば、スプリンクラー設備や屋内消火栓は、蛇口をひねればすぐ水が出る水道と同じ状態を維持する必要があります。
この記事では、補給水槽の仕組みから法的な設置基準、経年劣化によるトラブル対策まで、専門家の視点で詳しく解説します。
補給水槽(補助高架水槽)の役割と仕組み
補給水槽(ほきゅうすいそう)とは、建物の屋上に設置されることが多い消防設備の一部です。
あまり聞き馴染みがないかもしれませんが、「補助高架水槽」や「補助水槽」と呼ばれることもあります。
火災発生時に迅速な初期消火を実現するため、非常に重要な役割を担っています。まずは、その基本的な仕組みと目的を理解しましょう。
補給水槽の最も重要な役割は「配管内の加圧・充水」
🚰 補給水槽の役割とは?
よくある誤解
「補給水槽が消火活動の
水源(水を貯めるタンク)」
❌ これは間違いです
正しい理解
実際の水源は
「消火水槽(地下)」
✓ こちらが正解です
建物の消火設備システム
(充水・加圧)
重力
(実際の水源)
適切な圧力がかかっている
💧 充水
配管内に常に水を満たしておく
⚡ 加圧
適切な水圧をかけておく
🌊 重力利用
屋上から配管の末端まで水を送り込む
🔍 仕組みの解説
補給水槽の最も重要な役割は、消火用の配管内に常に水を満たしておく 「充水」と、適切な水圧をかけておく 「加圧」です。
補給水槽は、重力の力を利用して、屋上から配管の末端まで水を送り込みます。 この仕組みにより、配管内部から空気を抜くことができ、万が一の火災時に消火ポンプが起動すると同時に、 水が勢いよく放出されるのです。
補給水槽の最も重要な役割は、消火用の配管内に常に水を満たしておく「充水」と、適切な水圧をかけておく「加圧」です。
よくある誤解として「補給水槽が消火活動の水源(水を貯めておくタンク)」と思われがちですが、それは違います。
実際の水源は、地下などにある「消火水槽」です。
補給水槽は、重力の力を利用して、屋上から配管の末端まで水を送り込みます。
この仕組みにより、配管内部から空気を抜くことができ、万が一の火災時に消火ポンプが起動すると同時に、水が勢いよく放出されるのです。
補給水槽が必要とされる主な消防設備
補給水槽は、主に以下の3つの消防設備と接続されています。それぞれの設備において、配管内を水で満たし、初期消火のスピードを上げる重要な役割を果たしています。
- 屋内消火栓
- スプリンクラー設備
- 連結送水管
また、近年増えている「水道連結型スプリンクラー設備」は、水道管と直結させるため、原則として補給水槽を必要としない方式です。
混同しやすい「水槽」との違いを明確化
消防設備には「水槽」と名のつく設備がいくつかあり、混乱しやすいポイントです。
特に「消火水槽」「呼水槽(よびみずそう)」との違いを理解することは、建物の適切な管理に役立ちます。
また、古い建物では生活用水の「貯水槽水道」と兼用されているケースもあり、注意が必要です。
「補給水槽」「呼水槽」「消火水槽」の明確な違い
それぞれの役割は明確に異なります。以下の比較表で、その違いを確認しましょう。
| 設備の名称 | 主な役割 | 設置場所(例) |
| 補給水槽 | 消火配管内の充水・加圧(空気を抜く) | 屋上 |
| 呼水槽 | 消火ポンプが水を吸い上げるための「呼び水」を確保する | ポンプ室 |
| 消火水槽 | 消火活動の「水源」そのもの(大量の水を貯蔵) | 地下ピット、地上 |
このように、補給水槽は「配管を常に満タンにする」ための設備であり、水源である消火水槽や、ポンプの起動を助ける呼水槽とは目的が異なります。

高架水槽(生活用水)と兼用されている場合の注意点
築年数が経過した建物では、生活用水(貯水槽水道や簡易専用水道)用の高架水槽が、消防用の補給水槽を兼用している場合があります。
この兼用タイプには注意が必要です。特に、連結送水管の耐圧試験(消防隊が送水する圧力に耐えられるか試す試験)を行う際、問題が起きることがあります。
配管の途中には、水が逆流するのを防ぐ「逆止弁(チャッキ)」という部品があります。
この逆止弁が経年劣化などで故障していると、試験の圧力で生活用水側に水が逆流し、高架水槽を破損させてしまうリスクがあるのです。
また、生活用水と兼用する場合、配管内の水が長期間滞留する「死に水」が発生しやすくなります。
衛生管理の観点からも、定期的な点検と管理が求められます。
補給水槽の法的設置基準と容量
補給水槽は、建物の安全を守る重要な設備であるため、消防法によって設置基準や必要な容量が定められています。
これらの基準は、火災時に消火設備が確実に機能するために設けられています。
消防法に基づく設置が必要な建物
補給水槽(補助高架水槽)の設置は、消防法施行令第27条や、各自治体の条例によって義務付けられています。
具体的には、以下のような消防設備が設置されている建物で必要となります。
- スプリンクラー設備
- 屋内消火栓
- 連結送水管
多くの場合、一定以上の高さや延べ面積を持つ建物が対象となります。お使いの建物の設備が該当するかどうかは、消防設備士などの専門家への確認が必要です。
補助用高架水槽の容量の具体的な基準
必要な容量は、接続されている消防設備によって異なります。
例えば、スプリンクラー設備(閉鎖型)の場合、補助高架水槽の容量は「1㎥(1,000リットル)以上」と定められています。
ただし、ボールタップ(後述)などにより、水が減ると自動で給水される措置が講じられている場合は、基準が緩和されます。この場合の容量は「0.5㎥(500リットル)以上」と規定されています。
補給水槽の経年劣化しやすい重要部品とトラブル事例
補給水槽は一度設置すれば終わりではありません。経年劣化により、さまざまなトラブルが発生しやすい設備でもあります。
定期的な点検とメンテナンスを怠ると、いざという時に機能しない恐れがあります。ここでは、特に注意すべき部品とトラブル事例を紹介します。
サビによる逆止弁・仕切弁の機能不全
古い補給水槽や配管が鉄製の場合、内部に発生したサビが大きな問題を引き起こします。
水の流れを一方通行に保つ「逆止弁(チャッキ)」や、水の流れを止める「仕切弁」に、剥がれたサビが詰まることがあります。
逆止弁が機能不全に陥ると、消火ポンプが起動しても圧力が正常にかかりません。水が補給水槽側に逆流してしまい、屋内消火栓やスプリンクラーから水が出ない、という最悪の事態につながります。
ボールタップ故障による満水警報
補給水槽には、トイレのタンクと同じように、水位を一定に保つための「ボールタップ」という部品が使われています。
このボールタップも経年劣化しやすい部品の一つです。
内部のパッキンが劣化したり、浮き(ボール)が正常に作動しなくなったりすると、給水が止まらなくなります。水が溢れ続けると「満水警報」が発報し、場合によっては水漏れ事故につながるリスクもあります。
所有者や管理者は、日常的に水漏れや警報の有無、サビの状態を確認することが重要です。
点検・交換が必要なその他の重要箇所
上記以外にも、点検や交換が必要な箇所は多くあります。
- 配管接続部
- 水位計
- 水槽本体
消防法では、消防設備士による定期的な点検が義務付けられています。
具体的には、半年に1回の「機器点検」と、1年に1回の「総合点検」が必要です。これらのメンテナンスを確実に実施しましょう。
補給水槽の交換・代替案と材質比較
補給水槽の経年劣化が進んでいる場合、交換や改修工事が必要になります。その際には、従来通りの補給水槽に交換するだけでなく、別の方式を検討する選択肢もあります。
ここでは、代替設備や、新しい水槽の材質について比較検討します。
補給水槽の代替設備「充水用ポンプ」のメリット
近年、補給水槽の代替として「充水用ポンプ(じゅうすいようポンプ)」を採用するケースが増えています。
これは、屋上に重たい水槽を置く代わりに、小型のポンプを使って配管内に常時圧力をかける仕組みです。
<充水用ポンプのメリット>
- トラブルの減少: ボールタップや逆止弁の不具合、水槽本体のサビや水漏れといったトラブルが少ない。
- メンテナンス性: 屋上まで行かずにポンプ室で管理できる場合が多い。
- コスト: 新設・交換費用が、補給水槽を設置し直す場合と大差ないか、むしろ安価になるケースもある。
これから改修工事を検討する場合は、こうした代替案も専門業者に相談してみる価値があります。
補給水槽の材質(ステンレス/FRP)と選択のポイント
補給水槽を交換する場合、その材質選びも重要です。かつては鉄製(SS製)が主流でしたが、サビのリスクが非常に高いという欠点がありました。
現在は、耐久性と衛生面に優れた以下の材質が主流です。
| 材質 | 特徴 |
| ステンレス(SUS) | ・サビに非常に強い ・耐久性が高い ・衛生的 |
| FRP(繊維強化プラスチック) | ・軽量で施工しやすい ・サビない ・比較的安価 |
特にステンレス製は、耐食性・耐久性に優れており、長期的なメンテナンスコストの削減にもつながります。
<製品型式の例>
- ステンレス製消火用補給水槽(例:SU-ETN型 など)
- FRP製消火用補給水槽(例:FRS-ETN型 など)
旧来の鉄製水槽をお使いの場合は、サビによる配管トラブルを防ぐためにも、ステンレス製やFRP製への交換を強く推奨します。
補給水槽の設置・改修に関する無料見積もり相談
補給水槽は、目立たない設備でありながら、人命と財産を守るために欠かせない消防設備です。
経年劣化によるサビやボールタップの故障は、火災時に致命的な作動不良を引き起こす可能性があります。
「設置から何十年も経過している」「点検で不具合を指摘された」「サビ水が出る」といった症状があれば、早急な交換・改修工事の検討が必要です。
補給水槽の新設、交換、メンテナンス、または充水用ポンプへの代替検討など、消防設備に関するお悩みは、関西システムサポートへご依頼ください。


