ご自身の建物にどんな法的な義務があるのか、火災被害を最小限に抑えるにはどうすればいいのか。
そのためには防火対象物を理解する必要があります。
というのも、「防火対象物」は消防法における火災予防行政の主たる対象だからです。
自分が所有・管理する建物がどの区分に該当するか分からなければ、法的な責任を適切に果たすことはできません。
たとえば、防火管理者の選任や消防用設備等の設置義務は、この区分によって厳密に決まります。
これらを怠ってしまうと、万が一の火災時に重大な被害につながる恐れがあります。
この記事では、防火対象物の定義、重要な分類(特定・非特定)、そして課される主な義務について、分かりやすく解説していきます。
防火対象物とは?

防火対象物とは、消防法が火災予防の対象とするすべての「モノ」や「場所」を指す、非常に広い概念です。
法律が定める防火対象物
防火対象物とは、消防法第2条第2項で定められた対象を指します。
火災予防の対象を網羅するため、法律では厳密な定義が置かれています。
具体的には「山林、舟車、船舶、建築物その他の工作物若しくはこれらに属する物」と定められています。
つまり、火災が発生し得るすべての「場所」や「物」を指しているわけです。
ですから、一般的な建物だけでなく、実に広い範囲のものが防火対象物に含まれることになります。
建築物と防火対象物の違い
「防火対象物」は、私たちが普段「建築物」と呼ぶものより広い概念です。
消防法は、建物以外の火災リスクも管理対象としているためです。
たとえば、オフィスビルや住宅は「建築物」であり、もちろん防火対象物です。
しかし、法律はそれ以外にも屋外駐車場やガソリンスタンドのような「工作物」(※1)も対象とします。
さらには、山林や停泊中の船舶、車両なども防火対象物に含まれます。
火災リスクを持つすべての「器」や「空間」が防火対象物である、と理解しておくことが大切です。
特定防火対象物と非特定防火対象物
防火対象物は、その「用途(使われ方)」によって大きく2種類に分類されます。
この分類が、法的な義務の重さを決める上で重要なポイントです。
特定防火対象物とは?

特定防火対象物とは、火災時の人命危険度が特に高い施設を指します。
不特定多数の人が出入りする、あるいは自力での避難が困難な人々が利用するからです。
具体的には、劇場、飲食店、店舗、旅館・ホテル、病院、福祉施設などが該当します。
これらの施設は「特定用途」と呼ばれます。
そのため、特定防火対象物には、消防用設備等の設置や防火管理体制において、より厳しい基準が適用されるのです。
非特定防火対象物とは?

非特定防火対象物とは、特定防火対象物以外の施設を指します。
利用者が限定されている、または避難が比較的容易な施設が多いためです。
たとえば、事務所、学校、共同住宅、工場、倉庫などが「非特定用途」に分類されます。これらは収容人員が多くても、利用者が限定的(従業員や居住者など)であることが特徴です。
ただし、非特定だからといって火災リスクがないわけではなく、法に基づく適切な管理が求められます。
用途判定の根拠となる「消防法施行令別表第一」の読み方
建物が特定か非特定かの用途判定は、消防法施行令別表第一に基づいて行われます。
この政令の表には、建物の用途が細かく分類され、それぞれに項番号が割り振られています。
たとえば、(1)項は劇場、(6)項は病院や福祉施設、(16)項は複合用途ビルを示します。特に1階が飲食店で2階が共同住宅のような「複合用途防火対象物」は、建物全体が特定防火対象物として扱われるなど、より厳しい規制が適用される傾向にあります。
この項番号と建物の延べ面積や構造によって、防火管理者の選任や設置すべき消防用設備等の義務が変わってきます。ですから、この別表第一の確認が不可欠なのです。
| 項番号 | 主な用途(特定防火対象物) | 項番号 | 主な用途(非特定防火対象物) |
| (1)項 | 劇場、映画館、公会堂 | (7)項 | 学校 |
| (2)項 | キャバレー、ナイトクラブ | (8)項 | 図書館、博物館 |
| (3)項 | 飲食店、料理店 | (9)項 | 公衆浴場(蒸気浴場等は除く) |
| (4)項 | 百貨店、マーケット | (10)項 | 車両の停車場、駅 |
| (5)項 | 旅館、ホテル、宿泊所 | (11)項 | 神社、寺院、教会 |
| (6)項 | 病院、診療所、福祉施設 | (12)項 | 工場、作業場 |
| (16)項 | 複合用途防火対象物 | (13)項 | 事務所、官公署 |
| (16の2)項 | 地下街 | (14)項 | 倉庫 |
防火管理者の選任基準
火災予防の責任者として「防火管理者」を選任することは、防火対象物の関係者(所有者・管理者など)に課される重要な義務の一つです。
特定用途における選任基準
特定用途の防火対象物では、防火管理者の選任基準が厳しく設定されています。
火災時の人命危険度が高いため、早期の防火管理体制構築が求められるからです。
建物の収容人員が30人以上の場合、防火管理者の選任義務が発生します。さらに、自力避難が困難な方が多い入所型の福祉施設((6)項ロ)では基準がより厳しく、収容人員10人以上で選任が必要です。
この基準に該当する場合、資格を持つ者を選任し、消防署へ届け出なければなりません。
非特定用途における選任基準
非特定用途の防火対象物では、収容人員50人以上で防火管理者の選任義務が発生します。
特定用途に比べると基準は緩和されていますが、一定規模以上の場合は管理体制が必要とされます。
たとえば、事務所ビルや工場などで、建物全体の収容人員が50人を超える場合が該当します。
建物の関係者は、この基準をもとに選任義務の有無を確認しなくてはなりません。
防火対象物に課される主な義務と点検・報告の頻度
防火対象物には、法令遵守のための多くの義務が課されます。
これらの義務は火災予防の根幹であり、怠ると重い罰則や、火災発生時に法的責任を問われる可能性があります。
主な義務として、消防用設備等の設置・維持や、定期的な点検・報告が挙げられます。ここでは、特に重要な義務について解説していきます。
共通して求められる義務
すべての防火対象物には、その用途や規模に応じた消防用設備等の設置と維持が義務づけられています。
火災の初期消火、報知、避難誘導を確実に行い、被害を最小限に抑えるためです。
代表的な設備には、消火設備(消火器やスプリンクラー)、警報設備(自動火災報知設備)、避難設備(誘導灯や避難器具)などがあります。
また、カーテンや絨毯などに防炎物品を使用する義務も生じます。
これらの設備は、法令基準に適合したものを設置し、常に正常に作動するよう維持管理する必要があります。
点検の種類と報告頻度
- 機器点検(6ヶ月ごと)
- 総合点検(1年ごと)
設置された消防用設備等は、定期的な点検と消防署への報告が義務づけられています。
設備が経年劣化や故障で機能しないことを防ぎ、常に万全の状態を保つためです。
点検には2種類あります。設備の動作や外観を確認する「機器点検」(6ヶ月ごと)と、実際に設備を作動させる「総合点検」(1年ごと)です。
点検結果の報告頻度は用途によって異なり、特定防火対象物は1年に1回、非特定防火対象物は3年に1回、管轄の消防署へ報告が必要です。
点検実施者の資格要件
消防設備点検は、建物の規模によって実施できる資格者が異なります。
大規模で複雑な設備の点検には、高度な専門知識が必要とされるためです。
延べ面積が1,000㎡以上の特定防火対象物や、指定された非特定防火対象物では、消防設備士や消防設備点検資格者といった有資格者による点検が必須です。
一方、それ以外の小規模な建物では、建物の関係者(所有者や防火管理者)が自ら点検を行うことも可能です。ただし、安全を確実にするためには、専門業者に依頼することが推奨されます。

まとめ
防火対象物の適切な理解は、火災リスク管理の第一歩です。
自分が関わる建物がどの分類に属し、どのような義務を負うのか分からなければ、法的な責任を果たせないからです。
用途の分類(特定・非特定)の違いが、防火管理者の選任基準や設備の点検・報告頻度を決定します。防火管理者が選任された後は、消防計画の作成・届出や、定期的な消防訓練の実施といった、具体的な行動が求められます。
火災予防と法令遵守を徹底し、安全な環境を維持するため、まずは防火対象物の基本を正しく把握することが何より重要です。
防火対象物の管理は、専門的な知識を要します。特に用途が混在する「複合用途防火対象物」の判定や、法改正への対応は非常に複雑です。
点検の実施、消防計画の作成、適切な消防用設備等の選定など、専門家のサポートが不可欠な場面も多くあります。
ご自身の建物の管理状況に不安がある場合や、消防設備の点検・改修をご検討の場合は、関西システムサポートへ、まずは一度ご相談ください。


