避難経路図の設置は、火災や災害時に命を守る重要な義務です。
なぜなら、多くの人が利用する施設では、消防法や火災予防条例により、明確な設置基準が定められているためです。
基準を満たさない場合、罰則の対象となる可能性もあります。
例えば、旅館やホテル、病院など特定の防火対象物では、図面のサイズや記載事項、掲示場所まで細かく規定されています。
利用者が「現在地」を即座に把握し、安全な避難経路を選べる工夫が求められます。
この記事では、避難経路図の法的な設置基準、必須の記載項目、そして製作時の注意点まで、専門家の視点で分かりやすく解説します。
避難経路図とは?法的義務と設置の目的

避難経路図は、火災や地震などの緊急時に使うものです。建物内の人々を安全な場所へ導く「命の地図」と言えます。この図には、現在地から避難口までの最短ルートが示されています。
単なる案内図ではありません。避難経路図の設置は、建築基準法や消防法に基づく法的な義務です。
多くの人が集まる施設では、所有者や管理者に設置が求められます。
これは、万が一の際に迅速な避難を助け、利用者の安全を守る「安全配慮義務」の一環です。
正しく避難経路を明示することが、被害を最小限に抑える鍵となります。
避難経路図の設置が義務となる「防火対象物」
避難経路図の設置義務は、全ての建物にあるわけではありません。
特に火災発生時、大きな被害が想定される施設が対象です。これらを消防法では「防火対象物」と呼びます。
具体的には、不特定多数の人が出入りする以下のような施設が含まれます。
- 劇場、映画館、演芸場
- 百貨店、マーケット、その他の物品販売店
- 旅館、ホテル、宿泊所
- 病院、診療所、福祉施設
- 学校、図書館
- 地下街
- 工場や倉庫
- その他、複合用途の建物
これらの施設では、利用者が建物の構造に不慣れな場合が多いため、避難経路図による誘導が不可欠です。
義務対象の具体的な条件(規模・業種)
防火対象物であれば、必ず設置が必要とは限りません。業種や建物の規模によって、詳細な設置基準が定められています。
例えば、百貨店や市場などの場合、延べ面積が1,000㎡以上のものが対象です。また、規模が小さくても注意が必要です。避難口や階段が分かりにくい構造の建物も対象となる場合があります。
「自分の施設は対象だろうか?」もし判断に迷った場合、自己判断は危険です。必ず管轄の消防署(予防課)へ相談し、指導を受けてください。

避難経路図に「必ず」記載すべき必須項目
避難経路図に何を載せるかは、火災予防条例などで厳密に定められています。
利用者が迷わず行動できるよう、必要な記載事項を網羅しなければなりません。これらは消防計画にも関わる重要な情報です。
作成時に漏れがないよう、以下の必須項目を表で確認しましょう。
| 必須項目 | 具体的な内容 |
| 現在地 | 図を見る人が今どこにいるか(「YOU ARE HERE」) |
| 避難経路 | 現在地から避難口(屋外)までの道筋(矢印で明示) |
| 避難口・階段 | 非常口、屋外避難階段、特別避難階段などの位置 |
| 安全区画 | (該当する場合)一時的に安全を確保できる区画 |
| 避難器具 | 避難はしご、救助袋、緩降機などの設置場所 |
| 消防用設備 | 消火器、屋内消火栓、火災報知機などの位置 |
| 凡例 | 各マーク(ピクトグラム)の意味を説明するもの |
| 避難上の注意 | エレベーターの使用禁止など、行動のルール |

必須項目の中でも、特に注意すべき点があります。
まず、最も重要なのが「現在地(YOU ARE HERE)」です。
利用者は、今いる場所を基準にしか動けません。誰が見ても瞬時に位置を把握できるよう、明確に表示してください。
次に「避難経路」です。火災では、煙や炎で行き止まりになる事態が想定されます。そのため、原則として2方向以上の異なるルートを示す必要があります。片方の避難口が使えなくても、もう一方へ逃げられるようにするためです。
避難上の注意書きも重要です。「火災時はエレベーターを使わない」「煙を吸わないよう姿勢を低くする」「防火戸が閉まっても慌てない」といった具体的な行動を、ピクトグラム(絵文字)も活用し、簡潔に記載しましょう。
図面のサイズと設置場所の基準
避難経路図は、作れば良いわけではありません。サイズと掲示場所にも明確な設置基準があります。
🗺️ 避難経路図のサイズと設置基準
✅ 基準を満たすサイズ
避難経路
消火器位置
📐 サイズ要件
図面の一辺が50cm以上の四角形であることが求められます。
❌ 基準を満たさないサイズ
⚠️ 問題点
小さすぎる図面は緊急時に視認できず、基準を満たしません。
👁️ 視認性の重要性
50cm以上のサイズは、緊急時でも内容をしっかり視認できる大きさとして定められています。
✅ 緊急時の視認性確保
火災などの緊急時、パニック状態でも避難経路を迅速に把握できるよう、十分な大きさが必要です。遠くからでも認識でき、複数人が同時に確認できるサイズが求められます。
🏨 旅館・ホテルの例外規定
旅館やホテルの各客室内に設けるものについては、50cm基準の適用外です。
50cm基準は適用外
50cm基準は適用外
⚠️ ただし注意
50cm基準は適用されませんが、平面図として十分認識できるサイズは必要です。 あまりに小さすぎて内容が判読できないものは不適切です。客室の壁面に掲示する際、宿泊者が容易に確認できる大きさを確保しましょう。
📋 設置基準チェックリスト
図面の一辺が50cm以上の四角形であること
緊急時でも内容をしっかり視認できる大きさであること
50cm基準は適用外だが、平面図として十分認識できるサイズが必要
見やすい位置に掲示し、複数人が同時に確認できること
※宿泊施設の客室内は「十分認識できるサイズ」が必要です。


